青年部 志子田正浩
青年部ではさる平成20年3月8日、静岡県富士宮市にある「日本盲導犬総合センタ ー」で盲導犬に関する研修会を行ってきました。当日撮影の訓練風景と盲導犬の写真 を掲載しています。参加者は31名(付添いを含む)でした。
このセンターは、盲導犬の育成と利用者(ユーザー)と盲導犬の共同訓練のほかに、 レトリバー犬の繁殖や、現役をリタイヤした犬が引退後をすごすためのブースも設置 された総合的な施設として、日本盲導犬協会が平成18年秋に開設したものです。
また、盲導犬を多くの人に知ってもらうためのPR活動として、センターでは、 施設の見学や盲導犬のデモンストレーションなどが行われています。私たちが研修に行った その日も、多くの方々が見学に訪れていました。
①盲導犬の犬種
盲導犬に適した犬種としてかつてはジャーマンシェパード犬が使われていましたが、 現在では、その容貌のかわいらしさなどからラブラドールレトリバー犬やゴールデン レトリバー犬が主流に変わってきました。
センターで、この盲導犬の犬種に関して伺った話によれば、日常の中で盲導犬が 仕事をする時間(視覚障害者の誘導にあたる時間)というのは、一日の中でそれほど 多くの時間ではなく、むしろ視覚障害者ユーザーからの指示を待っている時間のほうが長いため、 ユーザーの傍らで静かに指示を待つことができる犬というのが盲導犬にとって大変重要な条件であり、 また、盲導犬は成長過程によって飼い主が代わるため、環境への適応力が求められます。
その点においてもおとなしく人になつきやすい気質を持つレトリバー犬は、 盲導犬として適した犬だそうです。
現在国内の盲導犬ユーザーは1018名、そして盲導犬の数は996頭(2008年3月末日現在)です。
ユーザーと盲導犬の数にズレがあるのは、視覚障害の世帯で二人で一頭の犬を使って いる世帯が含まれているためです。なお、現在盲導犬を利用してみたいという希望を持っている 視覚障害を持つ人は、7800名程度いるそうです。
日本盲導犬センターでは、年間50頭の盲導犬を育成できるようにしたいと話してい ましたが、生まれてきたレトリバー犬が全て盲導犬になれるわけではなく、盲導犬としての適正 を兼ね備え盲導犬となることのできる犬は全体の3~4割程度だそうです。つまり50頭の 盲導犬を育成するためには、およそ150頭の子犬が産まれなくてはならない計算になります。
さらに問題となるのが、子犬を愛情を持って一年間預かって育ててくれるボランティア (パピーウォーカーと言います)の数がまだまだ不足していることも盲導犬の数がなかなか 増えない要因の一つということでした。
盲導犬を取り巻く近年のうごきとして、2003念に施行された「障害者補助犬法」 があります。これは盲導犬を含め、聴導犬と介助犬(これらを総称として身体障害者補助犬と呼び ます」に関わる法律で、補助犬を使って身体障害者が自立し、社会参加をスムースに行えるようにするために 補助犬を訓練する事業所と利用者が果たす責務に加えて、公共施設や交通機関、その他民間の事業所 (商店や飲食店、宿泊施設など)に対してその施設の利用を補助犬を理由に「拒否しないように!」と定められた法律です。
身体障害者補助犬法が制定される以前、盲導犬は道路交通法の中で視覚障害者が歩行 する際に白杖に代わって視覚障害者を誘導するものとして規定されていましたが、 飲食店や宿泊施設などで、入店や入館を断られるといったケースがありました。 身体障害者補助犬法によって、盲導犬の社会の理解はある程度進んだようにも思われ ますが、この法律には罰則規定が無いため、盲導犬との同伴で断られたという話は今も耳にす ることがあります。
現在盲導犬を持ちたいと思っている視覚障害者に対して、盲導犬の数が少ない現状が あります。一頭の盲導犬を育てるためには、犬の訓練を行う事業所の他に、 犬の訓練以外の面で、パピーウォーカーや引退後の盲導犬を受け入れてくれるボラン ティアの支援がなくてはなりませんが、しかしその数がまだまだ足りないというのが現状のようです。
また、盲導犬として適した犬を増やすため、優秀な盲導犬の交配を行いその親から生まれた 子犬たちが盲導犬の「候補犬」となっていくということなので、このことからも盲導犬の 数を増やしていくというのは時間のかかるということが分かりました。
そして身体障害者補助犬法についても、現在の法律では、盲導犬などの補助犬を同伴しての外出は、 まだまだ法的な拘束力が弱いことから入店入館などを拒まれることがあるため、 その点の改善と、国レベルでの積極的な支援を自立支援法も合わせて 補助犬によって身体障害者が自立し社会参加が円滑におくれるように取り組んでもらいたいものです。
今回の研修で、参加者からの感想として、
「犬の自由を奪うようでかわいそうだ。」
「盲導犬を使ってみたいけど、つい甘やかせてしまいそう。」
「もっと国が力を入れて盲導犬を育成するべきだ。」
その他、参加者それぞれに思うところがあったようで、十分に意義のあった研修会でした。
今回の研修会で、盲導犬に接してみて、盲導犬と歩けば安心して歩行できそうだと実感しました。 白杖を使っての歩行では、広い道路の横断や駅のプラットホーム上の歩行はやはり かなりの危険を感じながら歩くのですが、盲導犬と歩くことができれば、「危険を感じながら」 というストレスを感じずに歩行することができそうな気がしました。
そして同時に一つの命ある盲導犬とのパートナー関係を築くということは、 日々のえさやりや排泄なども含めて、ユーザーと犬との協力関係がなければ成り立ちません。 その中で生まれる犬との「きづな」が私たちの自立を力強く支えてくれるのだと感じました。 補助犬には、「いやしの効果」もあると感じました。
これは障害者全般に言えることですが、障害者は普段の日常生活の中で、様々な場面 で精神的に傷つくことがあります。盲導犬に限らず、補助犬がユーザーに与えてくれるものは、 ユーザーのハンディを補ってサポートをするだけではないのだと私は考えています。 補助犬との信頼関係の構築が障害者の心の自己回復力をもサポートしてくれる存在で はないかと感じました。
盲導犬研修会レポート 終わり